【歴史から振り返る】UFCの競技性 

格闘技のIdentityは何か?

格闘技は、スポーツという大きな枠組みの中で捉えれば球技や陸上、水泳と同じように一つのジャンルであると考えています。

しかし、他のジャンル異なるのは、体への危険性でしょう。

格闘技では、人を殴ったり、蹴たっり、投げたり、絞めたりするという行為で、勝敗や優劣を決めていきます。

このようなことから、「格闘技のidentityは、肉体的な“強さ”にあるのではないだろうか」という、思いに辿り着きました。

“誰が強いのか?”という根本的な疑問があるがゆえに、人は格闘技に集まるのではないでしょうか?

では、なぜ異種格闘技戦がなぜ盛り上がるのでしょうか?

それは、一つの格闘技の強さのIdentityともう一つの格闘技の強さのIdentityが衝突し合うからではないでしょうか。

視点を変えてみると、強さという概念のぶつかり合いとみてとれるでしょう。

 

もう一度考え直してみてはいかがでしょうか?

異種格闘技試合は、ルールが必ず存在します。

なぜなら、それは喧嘩ではなく“格闘技”の試合だからです。

試合ということであれば、ルールが存在します。

異種格闘技の試合のルールが、ある一方の格闘技のルールで行われた場合には、

その試合は、一種の格闘技ともう一方の格闘技のIdentityの対立にならず、

定められた“そのルール”においての「個」対「個」の試合になるのかもしれません。

 

格闘技のIdentityを体現した格闘技

格闘技に求められている「どの格闘技が一番強いのか?」という疑問に答えたのが、UFC1でした。

Youtube, UFC 1: The Beginning – Full Event (Nov 12, 1993) より

 

1993年、UFC1は、最強の格闘技は何かというコンセプトの下、「階級差なし」「ルールなし」「判定決着なし」「時間制限なし」の8人制のトーナメントを8角形のゲージオクタゴンで行われました。

場所は、アメリカ、コロラド州のデンバー。

集まったファイターは、ボクシング、柔術、空手、キックボクシング、サバット、シュートファイティング、テコンドー、相撲の格闘技をバックボーンに持つ8人のファイター達でした。

トーナメントで優勝したのは、柔術をバックボーンに持つ ホイス・グレイシー。
彼は優勝賞金$50,000を手にしました。

しかし、彼が得たのは優勝賞金よりも、はるかに価値があるものでした。

ルールなし、グローブなし、判定決着なし、時間制限なし、階級差なし、という大会で、ホイスが優勝したことで柔術という格闘技が他の格闘技よりも“強い”ということを証明しました。

この大会をWOWプロモーションズと共同主催したSEG(Semaphore Entertainment GroupPPV(Pay per view)放送を取り入れ、UFC1において収益的な成功も収めました。

SEGは、PPVというメディア構造をUFCの放送によってアメリカに定着させたと言われています。

UFC1は、ルールの制限が少なかったために、一時的に大きな注目を集めました。

今で言うと、「バズった」という現象に当てはめるとしっくりくるのかもしれません。

しかし……….
この大会以降も、UFCは競技化の推進には着手しませんでした。

無秩序ルールから統制ルールへ

UFCの年別、大会数
UFC年別大会数 引用:Strategic Management in Sports. The Rise of MMA Around the World – The Evolution of the UFC

 

UFCは、第一回大会を皮切りに大会を重ねてきました。

ところが、競技のルール(ウエイト制、グローブの着用、ラウンド制など)は、統制されていませんでした。

 

UFC2, 3と続く大会も当初と同じワンナイトトーナメント制が採用され、選手たちは一日に3試合しなければ優勝できなかったのです。

UFCのルールに関して記事を書いている Adam Hill氏によれば、当初のUFCで反則とされていたのは、金的蹴り、目潰し、噛みつき、の3つのみであった。とTwitterに書いています。

 

UFCは競技統制されていなかったため、スポーツの競技として認められず、徐々に人気が落ちていき、社会から疎外されていきます。

 

そのきっかけとなる出来事が、ある政治家の発言でした。

1996年にJohn McCain (R-AZ) (アリゾナの上議委員:2000年の大統領選挙においてブッシュ元大統領と共和党の指名争いをしました。)は、ルールが統制されていなかった当時のUFCを “human cock-fighting.”(人間による闘鶏)と非難しました。

当時、力を持っていた、John McCain の影響により、UFCは多くの州で大会の開催が認められない状況になってしまいました。

(※John McCainがボクシング関係者と繋がりがあったため、その他の格闘技を排除しようとした。というも説もあります。)

 

これを機に、UFCはルールを制限し競技化を推進していきます。

  • UFC9  (May 17, 1996) を最後にトーナメント制からワンマッチ制になる
  • UFC 12 (Feb. 7, 1997)  から、ヘビー級とミドル級と階級も導入
  • UFC 14 (July 27, 1997) から、グローブの着用が義務付け開始
  • UFC 22 (Sept. 24, 1999)から、ラウンド制が設けられる

 

UFCの競技制にとっての大きな転機

UFC has consistently embraced more thorough regulation of MMA and adopted the Unified Rules of MMA in November 2000. These rules help ensure athlete safety and fair competition by providing a consistent set of rules for the sport – something that was missing in the early days of mixed martial arts. (UFC ホームページより)

UFCは、2000年11月にMMAユニファイドルールを取り入れUFCの競技化の強化に取り組んでいくことになりました。このルールは、選手たちの安全を守り、フェアな試合を提供できるものです。しかしながら、このようなルールは、MMAが始まった当初はありませんでした。

 

UFC28(2000年11月)において、ニュージャージー州アスレチック・コントロール・ボード(略称:NJSACB)が独自に定めたMMAルールにおいてUFCの開催を認めました。

 

このルールは、現在のMMAルールの基盤となっています。

 

2001年にはこのルールがASSOCIATION OF BOXING COMMISSIONS AND COMBATIVE SPORTS に認められます。

 

これが、UFCの競技統制にとって大きなステップとなります。

2006年には、1997年からUFCイベントの開催を禁止していたニューヨーク州もイベントの開催を解禁しました。

これで晴れて、UFCはアメリカ全土で大会を開催できるようになりました。

 

批判していた、John McCainも2007年にNPRというラジオのインタビューでは、

“They have cleaned up the sport to the point, at least in my view, where it is not human cockfighting any more. I think they’ve made significant progress. They haven’t made me a fan, but they have made progress.”

彼ら(UFC)は、スポーツとしてUFCを整備した。今では人間による闘鶏のようなものではない。私が思うに、彼らはとても進歩した。私は彼らのファンにはならないが、彼らは本当に進展した。

と答えています。

ドーピング組織との提携

2015年にUFCは、USADA(The United States Anti-Doping Agency®︎:全米反ドーピング機関)との提携を発表しました。

 

これを機に、UFCに出場する選手たちはUSADAによるドーピング検査を義務付けられました。

選手たちは、筋肉増強剤などを使用できなくなったのです。

 

これまで多くの選手がUSADAによって出場停止処分になっています。

USADAは、独立したドーピング組織のため人気選手でも、プロモーションの意図とは関係なく出場停止にさせることができます。

実際にも今まで多くの人気選手が出場停止になりました。

USADAの出場停止処分選手をホームページに公開してします。

↑もし興味のある方クリックしてみてください。

MMAの未来を開くUFC

2017年、UFCは、ラスベガス本社にUFC PERFORMANCE INSTITUTEを併設しました。

 

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UFCのChief Operating Officer (COO) を務める、Ike Lawrence Epsteinは、

“The philosophy behind that was, yes, we’re working in PR, working in events or whatever aspect of the company, but every day you should be thinking about our product. Everyone in the office building will look out the window and see the product. We’ll be thinking of our mission every day.”

私たちは、イベントを行ったり、イベントのPRをしたり会社についてはある程度なんでも行う。しかし、私たちは毎日私たち自身の製品(UFC)を考えるべきだ。オフィスにいる皆が私たちの製品(UFC)をみることができるだろう。そして、UFCで働いている人たちが私たちのミッションについて毎日考えるようになるだろう。

と言っています。

さらに、VICE PRESIDENT OF OPERATIONS である、JAMES KIMBALLは、

“Our goals here are simple yet ambitious, and that is to accelerate the evolution of the MMA athlete while also becoming a leader in the sports performance community,”

私たちのゴールはシンプルだがアンビシャスだ。それは、MMAアスリートの進化を加速させるとともにスポーツパフォーマンスコミュニティのリーダーになることである。

と言っています。

 

UFC PERFORMANCE INSTITUTEは、UFC選手のためにUFCによって作られた施設なのです。

UFCと契約している選手たちは施設を利用できますが、フィットネス会員など一般参加は受け付けていません。

UFCは、プロモーションという大会を主催する立場でありながら、最新の設備と知識でUFC選手たちをサポートするのです。

UFCのこれから

 

UFCは、自らのミッションとして、

UFC has expanded its business globally and since 2017 has stated that its mission is to,

“help promote the sport of MMA evolve into a major world sport.”

“MMAの促進を助け、世界的メジャースポーツにするため発展させる”

とStrategic Management in Sports. The Rise of MMA Around the World – The Evolution of the UFC の筆者のSergiu Vlad Stanは書いています。

 

UFCは、自身のプロモーションだけではなくMMAという競技もプロモーションしていくのです。

2019年、上海にもUFC PERFORMANCE INSTITUTEをオープンさせています。

これからもMMA選手を生み出す環境を作り、競技化を徹底していくのでしょう。

 

後書き

UFCは、競技性を確立させていったことで世界一の格闘技プロモーションになりました。

UFCがここまで大きく発展した要因は、「競技化」というのが一つのキーワードではないでしょうか?

では、これからのキックボクシングは何ができるでしょうか?

格闘技の強さというIdentityを象徴するのは、総合格闘技 (MMA)になるでしょう。

だからこそ、キックボクシングは自らのIdentityをつくり、それを育てていくことが必要となると思っています。

私は、Kickboxing Designerとしてキックボクシングをデザインしていきます。

最初のステップとして、進化していくキックボクシングの中にある変わらないものをみつけるため調査することに徹していきます。

 

参考記事

A Timeline of UFC Rules: From No-Holds-Barred to Highly Regulated

The UFC – 1996 Through 2000

Don’t Forget John McCain’s Other MMA Quote

When Did The UFC Start Using Gloves?

New York legalizes MMA after nearly 20-year ban on the sport

UFC PERFORMANCE INSTITUTE ANCHORS NEW UFC CAMPUS