リングに叩きつけた拳

「エイワに、RISEのベルトを持ち帰る。」
挑戦者 竹内将生は、2021年7月28日後楽園ホールに行われたタイトルマッチに向けてこのように宣言していた。

結果は、1R 1R1分48秒 大逆転 KO で敗れた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/1d51dcb92fa2bd54a0c60690712fc88a977fdf31)
より

竹内は、開始早々右ストレートでダウンを奪ったが、持ち前のミドルキックも生かさずに左右のフック系のパンチを振り回した。

最も倒せる可能性が高いダウン奪取直後に冷静さを欠き、RISEルールでは反則である両手を組んでからの2回の膝蹴りをしてしまった。

レフリーにイエローカードを提示されてから、RISEルールにおいての組んで2回の膝蹴りが反則であることを思い出したそうだ。

竹内が、レフリーにイエローカードを提示されている間にチャンピオン工藤は回復した。

試合再開後、息を吹き返した工藤は、至近距離の右フックでダウンを取り返した。

立ち上がった竹内だが、足元はおぼつかない。
自陣のセコンドに振り返り「大丈夫。大丈夫。」と言った。
竹内の目はまだまだ生きている。再開後も左右のパンチを振り回した。

工藤は、ガード固め前へ出る。
竹内の右フックに対して、右フックを返す工藤。
このフックが竹内のテンプルを捉え、竹内は後ろに崩れるように尻餅をつき2回目のダウンを喫する。

3ノックダウンのルールのため、追い込まれた竹内。
ゆっくりと立ち上がりニュートラルコーナーへ歩く。
竹内の表情はまだまだ生きている。
再開後、「こいよ」と雄叫びをあげ左右のパンチを振り回す。

工藤は、変わらずガード固めて前にでて、竹内の大振りのパンチに右フックを合わせる。

竹内の重心が後ろになったところに、工藤の右ショートストレートが竹内の顔面を捉え竹内はバランスを崩すように倒れていく。

工藤は、右手を突き上げ勝利の雄叫びをあげ

竹内は、自らうつ伏せになりマットに顔を向けた。


工藤は、セコンドと抱き合い勝利を分かち合いベルトをチャンピオンの証であるベルトが授与され、

竹内は、自力で立ち上がり無言でリングを降りた。

 


リングの真っ正面(北側の一列目)で観戦していた私は、

なぜ彼が自分のスタイルを崩してまで1ラウンドから倒しにいったのか、理解に苦しんだ。

今まで私が見てきた彼のスタイルは、どっしりと構えミドルキックを相手の腕と腹に蹴り、着実に相手にダメージを与えるスタイルだった。

しかし、彼は彼のスタイルで試合を組み立てようともせずパンチを打ち込んでいった。

私の目には、この試合を最後と決め玉砕覚悟でパンチを打ち込んでいるようにも見えた。

勝負を捨てて強引にいきすぎなのでは、ないかとも思った。

彼をそうさせた理由は、なんだったのだろうか。
今回は、「彼がリングに叩きつけた拳」の理由に迫った。

試合の二日後

この試合の2日後、渋谷のとあるホテルのラウンジで彼と会った。
そこには、どこかスッキリしている彼がいた。

彼からこのタイトルマッチへの想いを聞いたとき、なぜあのような戦い方をしたのか、少し納得できる自分がいたことは否めない。

彼の話から、
「所属ジムであるエイワスポーツジムへの恩返し」
「RISEという舞台への期待」

の二つが彼にあのような戦い方をさせたのだろうという仮説を私は立てた。

エイワスポーツジムへの恩返し

竹内が所属するエイワスポーツジムは、現在の日本のムエタイ軽量級の総本山といっても過言ではない。

所属選手には、日本人史上初のムエタイ2大殿堂スタジアムのチャンピオン 吉成名高を筆頭に数多くのムエタイ世界チャンピオンが所属する。

「エイワに、RISEのベルトを持ち帰る。
竹内は、この言葉を試合前のインタビュー、前日計量でも話していた。

繰り返すようだが、エイワスポーツジム所属の選手にはムエタイの世界チャンピオン達が数多くいる。

しかし、RISEのチャンピオンはまだいないのだ。

そのRISEのチャンピオンという証を、エイワにもたらすことで貢献したいと言っていたのだ。

今この記事を読んでいる方で、竹内の想いの意図が伝わりにくいかもしれないので補足を書くことにする。

彼が言わんとしていたのは、RISEルール、ここでは肘での打撃なし首相撲での攻防がなしのキックボクシングルールと表そう。

そのRISEのチャンピオンという証をエイワスポーツジムに初めて持ってきたいということだったのである。

キックボクシングルールとムエタイルールの違いは、多くの人が独自の見解を持っていて正しくは表現できない。

それもそのはず、キックボクシングという大会の名の下、肘での攻撃があり首相撲ありという、ムエタイのルールで行われている大会が存在するからである。

しかし、ムエタイという名で行われている試合において肘なし首相撲なしで行われているものは、ないと言っていいだろう。

この多少の違いは、見ているだけの人には伝わりにくいかもしれないが、このルールの違いは勝敗にかなり影響する。

そもそもラウンド数が、異なる。

多くのキックボクシングの試合では、3分3ラウンドでおこなれるが、ムエタイでは5ラウンドが主流である。

ラウンド数によって、試合の組み立て方も変わってくるのである。

この試合は、タイトルマッチだったため5ラウンドで行われたが、
RISEで行われる試合はタイトルマッチ以外全て3ラウンドである。

ムエタイの世界チャンピオンを数多く輩出してきたエイワスポーツジムに、
RISEのチャンピオンベルトを持ってくるというのは、キックボクシングルールでの強さも証明したいという裏付けであろう。

竹内は、数多くの国内タイトルを獲得してきているがその多くが、
肘あり首相撲ありのルール、いわゆるムエタイルールによるものだ。

2019年2月3日に、初めてRISEに参戦した竹内は今回挑んだタイトルマッチのRISEフェザー級(57.5kg) より一つ下のRISE バンタム級(55kg) で、良星と対戦し判定で敗れている。

竹内は、そこから肘なし首相撲なしのルールに参戦し続け、Bigbangフェザー級タイトル(肘なし)を獲得。

そして、RISEフェザー級挑戦者決定トーナメントに参戦し、宮崎就斗、門口佳佑の両者を判定で破り、工藤の持つタイトルマッチにたどり着いた。

エイワスポーツジム 会長への感謝

竹内がエイワスポーツジムに入ったのは、エイワスポーツジム設立された当初だったという。

入った当時は現在の会長は就任しておらず他の人が会長をしていたそうだ。
そこから数ヶ月して、現在の会長になったとのこと。

竹内は、このように言う。

「俺が、キックに真剣に取り組んでいなかった時も、会長は我慢強く見守ってくれていたし、試合も組み続けてくれたんだよね。」

高校生から二十歳前後までは、練習より友人との遊びを優先させてしまっていた時期があったそうだ。

しかし、エイワスポーツジムの会長は竹内を見捨てずに試合を組み続けた。
そして彼は、10代で国内複数団体のチャンピオンにまでなった。

キックボクシングへ取り組む姿勢に変化があったのは、二十歳を過ぎてからだそうだ。

彼は仕事で帰りが遅くなっても、必ずジムにいき練習を行なっていたそうだ。

そして、一昨年の夏に行われた合宿で竹内はもう一度チャンピオンになることをエイワスポーツジムのジムメイトに宣言する。

「エイワに、RISEのベルトを持ち帰る。」

この言葉へ込められていた想いは、エイワスポーツジムというチームへ貢献することと、会長への感謝を示すということだったのだろう。

そんなエイワスポーツジムの会長は、試合直前に
「俺への恩返しなんて気にすんな。」と竹内に一言声をかけたという。

肩の荷が降りたのは、言うまでもない。

RISEという舞台への期待

 

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写真:KUSHIMAX

「試合内容、恥ずかしい試合内容をしてしまって、申し訳ないという思いと、RISEフェザー級3位としての試合ではなかったかなと思います。これからもっともっと改善点をしっかり直して工藤選手へのタイトルマッチで勝てるように繋げていきたいと思います。」
(試合映像とマイクパフォーマンス

と、門口との次期挑戦者決定戦を勝利後、反省の弁をリング上で語っていた。

RISEフェザー級王者の工藤とのタイトルマッチでは、今までと違ったスタイルで戦おうと決めて試合に臨んだようだ。

それは、なぜだったのだろうか。

竹内は、試合後このように話してくれた。

「工藤選手は、接近戦の削り合いに強い。だから、後半の4ラウンド、5ラウンドにいくと分が悪い。もし早いラウンドでチャンスがきたならそこで勝負をかけようと思っていた。」

また彼は、チャンピオン工藤の癖を見抜いていた。

それは、ストレート系のパンチへの反応が遅れることである。

確かに、2019年2月に工藤が参戦したONE Championshipでは、Petchdamにストレートを打ち込まれKO負けした事がある。(試合映像

竹内の中では、早いラウンドで勝負を仕掛けるプランだったのだ。

そして、見事に長距離からの右ストレートで1R開始早々ダウンを奪った。

さらに、彼に拍車をかけたのはRISEという舞台へのファンからの期待だったようだ。

「竹内と工藤の試合は塩試合になるだろうな。」
このような節の投稿をネットで見つけた竹内は、なんとしてでも盛り上げる試合をしようと奮起した。

試合後の周りの反応

試合後、竹内は試合に来てくれた応援団から

「結果は残念だったけど、なんかスッキリしたよ。」
という言葉を言われたらしい。

嬉しかったのか、そうではなかったのはさておき、
彼の応援団というのは、彼を10代の頃から応援している人たちである。

彼のファイトスタイルは、一か八かでKO勝利を狙いにいくのではなく蹴りで距離を着実に制して削っていき勝利を狙っていくスタイルだ。

キックボクシングを会場にて観戦する一つの醍醐味として、人が倒し倒され合いをする非日常体験が挙げられるだろう。

竹内を長く応援している人たちは、彼の勝利を願っていたのはいうまでもないが、彼の試合運びに何か物足りなさを感じていたのかもしれない。

今回の試合内容は、KO負けはしたものの今までのスタイルを変え、序盤から倒しにいった。

「なんかスッキリしたよ。」という応援団からの言葉は、
竹内にとって救いになっただろう。

これから

竹内の目標はこれからも変わらずRISEのチャンピオンにこだわるそうだ。

そして、

『これまで応援してきてくれた人たちに、応援してよかったなと思ってもらたい。
例えば、テレビなどマスメディアに出るような活躍ができれば、「竹内将生を応援しているんだ。」と応援団の人たちも言うことができる。
そのような存在になりたい。」

と話してくれた。

後書き

私が初めて彼に会ったのは、12歳の頃だ。
正確には、会ったというよりかは彼と初めて試合をした。

そこから、彼とはアマチュアの試合を計5回行なった。

小学生の頃1回
中学生の頃3回
高校生の頃1回

竹内くんは覚えていないだろうが、私が負け越している。

私は、彼に負けていなかったら奮起もしていなかったかもしれないし、
キックボクシングにのめりこまなかったかもしれない。

そんなことは事よりも、

なぜ彼があそこで勝負に出なければいけなかったのか、である。

「なんとしてでもRISEのチャンピオンになる。」
という彼自身の強い意思があったの当然のことであるが、

社会的な要因として彼をそうさせたのは、キックボクシングプロモーション間におけるファンから期待の違いにもあったのではないかとも思う。

誤解を恐れずに言えば、興行としてのエンターテイメント性が彼をそうさせたともいえるのではないか。

もちろんプロである以上、観客を喜ばせることは大切な仕事である。

しかしながら、盛り上げるためだけに捨て身になることは、自らが消費材になることを厭わないことと同じであろう。

何はともあれ、竹内くん。

「マジで頑張れ。そして、もう一花咲かせてくれ。」


 

竹内将生
Twitter : https://twitter.com/maaaa_5151
Instagram : https://www.instagram.com/msk.6000/
所属:エイワスポーツジム

 


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